以下、作者の気持ちのなってのブラクラ妄想セールストークです〜〜
我が工房の窓から見える空は、何世紀もの間、偉大な芸術家たちが見上げてきた空と同じ色をしている。私の手の中にあるこのネックレス、作品番号「84265」は、その空の下で紡がれてきたイタリアの物語の、ささやかな続きに過ぎない。これは単なる装飾品ではない。石畳に響く歴史の足音、ルネサンスの巨匠たちが追い求めた完璧な均衡、そして現代を生きる女性たちのための、静かなる哲学の結晶なのだ。
すべては、素材の選定から始まった。イタリアの宝飾品といえば、太陽の光をたっぷりと含んだ豊かなイエローゴールドを思い浮かべるだろう。[1] しかし、私はあえて18カラットのホワイトゴールドを選んだ。それは、カラヴァッジョの絵画における光と影の劇的な対比、その静謐な月の光のような輝きを求めたからだ。この金属の持つ冷たいほどの純粋さは、余計な感情を削ぎ落とし、フォルムそのものの言語を語らせるための、完璧なカンヴァスとなる。重さ17.2グラム。それは、肌の上で確かな存在感を持ちながらも、決して重荷にはならない、経験の重みにも似ている。 デザインの核となるのは、幾何学だ。宇宙の根源的な言語であり、古代ローマの建築家から未来派の芸術家に至るまで、我々イタリアの創造者たちの精神に深く刻み込まれた秩序の探求である。ネックレスを構成するのは、小さな長方形の連なりと、等間隔に現れる中空の正方形。このリズムは、人生そのもののメタファーだ。日々の連なりである小さな長方形のリンク、そして時折訪れる、世界を覗き込む窓、あるいは自己を見つめるフレームとしての中空の正方形。
この正方形のモチーフは、フィレンツェのサンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂の設計に見られる、ブルネレスキの完璧なプロポーションへの執着からインスピレーションを得ている。ルネサンスは、芸術と科学が分かちがたく結びついていた時代。宝飾品もまた、ただ美しいだけでなく、知的な調和を体現するものでなければならなかった。[2][3][4] この中空の正方形は、ルネサンスの建築のように空間を定義し、それを身にまとう女性の肌を覗かせることで、初めて完成する。それは、着る人とジュエリーとの間の対話を生み出すための「窓」なのだ。 チェーンの連なりは、古代ローマへと遡る我々の金属加工技術の伝統、エトルリア時代から受け継がれる繊細な職人技へのオマージュでもある。[1][5][6][7] ひとつひとつのリンクは、過去の偉大な金細工師(オレフィチェ)たちの指先から生まれた無数の作品の、静かな反響音だ。[8] しかし、そのデザインは決して懐古趣味ではない。そのミニマルでクリーンなラインは、20世紀のイタリアを席巻したモダニズムの精神、装飾を排し、機能とフォルムの純粋な美しさを追求した芸術運動の影響を色濃く受けている。[9] そして、このネックレスの最も現代的な哲学は、その構造に宿っている。最長42cmまで自由に長さを調整できるフリーサイズ。これは単なる機能ではない。現代女性の生き方そのものを反映しているのだ。かつてのジュエリーが、特定の場面や服装のために厳格に定められていたのに対し、このネックレスは、まとう女性の意志に寄り添う。ある日は短くチョーカーのように、またある日は長く、胸元に優雅なY字を描くラリアットとして。先端のシンプルなバーが、静かな決意のように揺れる。これは、自己表現の自由、「la bella figura(美しき姿)」とは他者から与えられるものではなく、自ら創造するものであるという、現代イタリアの精神性を象徴している。[1] 私は、このネックレスが、ただキャビネットにしまわれるだけの宝物になることを望まない。これを身に着ける女性が、友人たちと笑いさざめくアペリティーヴォの黄昏時にも、重要な契約を決める会議の静寂の中にも、共に時を過ごしてくれることを願う。この幾何学的なフォルムの連なりが、彼女の肌の上で、古代から未来へと続くイタリアの美の物語を、静かに、しかし雄弁に語り続けることを。
作品番号「84265」。それは、私の手から生まれたひとつの小さな宇宙。時を超え、国境を越え、それを手にするあなたの物語の一部となる日を、工房の片隅で静かに待っている。