今月出品することのできる染織は、これでおしまいです。イカットのお好きなコレクター向きの一枚で、図録でしか見たことがない方が多いかと思います。高い技術で織られた非常にレアな布です。40年に渡る蒐集の中でも、わずか３枚しか入手できず、あとの2枚は10年近く前に手放してしまったようです。これが最後の一枚でしょう。
　この布は、インドネシアティモール島西部の町クーパンの隣りにある小さな小さな島、セマウ島（2枚目画像の上の地図の赤矢印）の先住民であるヘロン人の女性により織られた布です。
　大きさは、約205ｃｍ×98ｃｍ、中央の白い布と左右の絣部分が縫い合わされた3枚パネルで織られた1960年頃の古布です。深い茶色の天然染料が美しいと思います。
　インドネシアの他の島の布とは違って、この小さな島の布は観光客に売るために織られたものはなく、（20世紀後半に洋服が普及する以前は）家族が着用するためにしか織られませんでした。そのため、この島の布は、ほとんど市場に出回ることがなく、残っている数も極端に少ない布です。用途は男性の腰巻でしたので、家族の男性のために心を込めて織ったのでしょう。
　2枚目下の画像の解説は、約35年前の専門書（洋書）からですが、その当時でさえ、「入手できる布はごくわずか」（赤い下線部）と記載されていることからも、希少さがお分かりいただけるかと思います。
　更に、この布は単に数が少ないだけでなく、技術的にも非常に優れています。上質で細い木綿糸を使い、3〜5枚目画像からも、全くズレなく、浮かび上がるような経絣が織り込まれており、実に見事なイカットワーク（絣仕事）で、美しいと思います。同手の布が、希少な布ばかり紹介されている岡田コレクションの図録（10枚目画像）に掲載されています。絣部分を比較していただくと絣の繊細さが負けておらず、熟練の織り手による一枚だと分かります。
　約40年前に入手してから倉庫で大切に保管していましたので、大きな傷みや補修は無く、良い状態です。ただ、左下に小穴（4枚目画像緑色囲み）、左上隅に元の持ち主のイニシャルと思われる書き込み（9枚目画像左の白い囲み）、右上に3ヶ所変色（9枚目画像右の黄色囲み、製作時からのものかもしれません）があります。汚れもありますので、実際に着用されてきた古布であることを了解の上、ご入札をお願いいたします。
　今回久しぶりに出てきたので整理のため出品しますが、一般には出回ることのない希少な布です。大切に引き継いでくださる方がいらっしゃいましたら、よろしくお願いいたします。

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