独自経済圏の磁力
誰が阻止するのか
地球上で最も豊富な商品を提供し、地球上で最も顧客を大事にする――。
アマゾンは1995年に書籍販売サイトとして誕生して以来、ジェフ・ベゾス創業者兼CEOの指揮の下、ひたすらこの理念を追求してきた。1月28日に発表された2015年度決算は売上高1070億ドル(約12兆円、1ドル112円換算以下同)、年間利用者3億人となり、eコマース企業として前人未踏の規模へ到達した。3月5日号(2月29日発売)の週刊東洋経済『12兆円の巨大経済圏 アマゾン』では、同社の全貌に迫っている。
日に日にスケールを拡大させるアマゾンにとって、目下成長の原動力となっているのが有料会員制サービス「アマゾン・プライム」だ。2005年に米国で始まり今や世界8カ国で展開するこのサービスは、日本では2007年6月から始まっている。
週刊東洋経済3月5日号(2月29日発売)の特集は『アマゾン 12兆円の巨大経済圏』です。増殖する「買い物帝国」。その全貌に迫りました。画像をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします
プライムの強みは「 “食べ放題サービス(all-you-can-eat)”をトータルで提供している」(グレッグ・W・グリーリー米本社担当副社長)点にある。
世の中にネット上の使い放題サービスは多く存在するが、それらをほかのサービスと組み合わせ、トータルで提供しているものは少ない。アマゾン・プライムの場合は年会費3900円(日本の場合、米国では99ドル)を払えば、さまざまなサービスが使い放題の対象になるという特徴がある。
たとえば、対象商品であれば注文確定日から3日以内に商品が届く「お急ぎ便」と注文確定当日に商品が届く「当日お急ぎ便」。それぞれ1回につき360円、514円かかるが、プライム会員になれば使い放題だ。ほかにも定期購入サービス内で3品以上注文すれば15%割引になる「おまとめ割引」や、音楽聞き放題の「Prime Music(プライム・ミュージック)」、映像見放題の「プライム・ビデオ」なども利用対象だ。
2000年の日本進出当初からトップを務めるアマゾン ジャパンのジャスパー・チャン社長。日本での労働組合結成には「これまでオープンな環境を構築できてない面があった」と認めた(撮影:今井 康一)
最近では最短1時間で商品が届く「プライム・ナウ」や写真を無制限に保存できる「プライム・フォト」がラインナップに加わるなど“食べ放題”の中身は充実してきている。
こうして利便性を高めてきた結果、アマゾン・プライムの登録会員数は2015年度にグローバルで前年比51%の伸びを示した。実数は公表していないが、「中でも日本の伸び率が最も高かった」(アマゾン ジャパンのジャスパー・チャン社長)という。現在、日本のプライム会員数は600万人とみられ、伸びしろはまだありそうだ。
巨額投資を支える黒子役「AWS」
1997年の米ナスダック上場のときから短期的な利益を追わないことを宣言しているアマゾンから見れば、プライムもまずは顧客を囲い込む出血覚悟の戦略といえる。とはいえ、アマゾン自体がまったく稼いでいないわけではない。利益面でじわりと存在感を出しているのが、クラウドサービスの「AWS(アマゾン・ウェブ・サービス)」だ。
AWSは2015年1~3月期から初めて個別の業績を開示し、収益性の高さに投資家を驚かせた。2015年7月に発表した4~6月期の決算ではAWSの急成長ぶりが著しいことから、その直後に米小売り最大手ウォルマートの時価総額を抜いたほどだ。
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2015年度通期におけるAWSの業績は売上高78.8億ドル(8825億円)、営業利益18.63億ドル(2086億円)だった。営業利益率は23%で、全体に占める売り上げはわずか7%ながら営業利益は同41%に上る(営業利益は株式報酬支給前ベース)。小売り事業の巨額投資を支える“黒子役”として活躍を見せている。
AWSが急成長している理由についてヴァーナー・ボーガス米本社最高技術責任者は「規模を拡大することでデータセンターのコストを削減し、値下げによって顧客に還元するという古いタイプのIT企業にはできないことをやってきた」と解説する。ベゾスCEOは将来的に、AWSが小売り事業と同規模の売り上げになると期待をかけているとも言われる。
本誌推定によれば、アマゾンは現在少なくとも20億の品目、年間合計で40億個の荷物を取り扱う。
品目数はアマゾン ジャパンの日本市場における公表値「2億」を基に、全体売り上げのうち日本法人が占める比率(約1兆円、1割弱)から算出した。荷物の個数は「アマゾンがヤマト運輸に配送を委託している比率はヤマト全体が年間で取り扱う宅急便16億個強の15%(=2.5億個)、これはアマゾンが年間で扱う荷物の65%に相当する」(通販物流代行会社イー・ロジットの角井亮一CEO)との試算に基づく。
つまり、日本でアマゾンが取り扱う荷物は「4億個」。同じく日本法人の売り上げ比率から求めれば、世界で取り扱う荷物は40億個という計算になる。本件についてアマゾン米本社からは回答を得られず、アマゾン ジャパン広報部は「特にコメントはない」と回答している。
一方で、不名誉な記録もある。国際労働組合総連合(ITUC)は2014年5月、物流センターの従業員が1日当たり24キロメートル歩行していると発表した。2015年8月に米ニューヨーク・タイムズがアマゾン社員の証言を基に過酷な労働現場について報じるなど、急激な成長によるアマゾン社内における負の面が明らかになりつつある。2015年11月には、日本でもアマゾンの労働組合が結成された。
隆盛を誇るアマゾン ジャパン
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物流のさらなる進化に向け、ドローンの実用化も模索。日本政府が国家戦略特区に指定した千葉県千葉市で初めて実現する可能性がある
今回の取材では、アマゾン ジャパンに在籍する正社員が2015年末時点で3500名ということも判明した。「半年間の中途採用ペースは500名規模」(同社社員)とされ、東京都目黒区のオフィスでは「もはや手狭」(別の社員)という声もある。
グローバルで見て成長著しい日本市場において、勢いを示す象徴的存在が物流センターだ。2013年9月から稼働した延べ床面積約20万平方メートルを誇る神奈川県小田原市の物流センターは、世界で50を超える物流センターの中でも最大級ということから当時大きな話題を呼んだ。
しかし物流関係者らの間でアマゾンは最近、「神奈川県川崎市高津区で小田原と同等かそれを上回るサイズの物流センターを建設している」との情報が飛び交っている。くしくもこの高津区は、楽天が新しく本社を置いた東京・二子玉川駅の目と鼻の先。楽天は物流事業から「事実上撤退」(同社OB)し、主力のEC事業「楽天市場」の実態を示す取扱高を非公表にするなど勢いに陰りが見え始めているさなかだ。
あらゆる商品を取り扱い、さまざまな業種の競合を飲み込んでいく(撮影:梅谷 秀司)
大手の日系メーカーもアマゾンのほうを向き始めた。化粧品を除くすべての1500商品を展開する花王は「一つのメディアとしてリアル店舗以上に客にブランド価値を伝達できる。ほかのECサイトと比べ安心・安全という印象がある」(チェーンストア部門Eコマース部の武子弘司部長)と、アマゾンならではの強みを挙げる。
巨大な物流網を武器にメーカーをも取り込むアマゾン。巨大な買い物帝国は競合たちをあざ笑うかのように、ここ日本でも強固な経済圏を築き上げようとしている。
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中古品です。
自宅で保管していました。
スレやキズ、経年劣化はある状態です。
中身は概ね綺麗です。
古い本ということをご理解の上、お願いします。
宜しくお願いします。