八木佑介（やぎ・ゆうすけ）は1991年京都府生まれの日本画家で、京都造形芸術大学大学院を修了した。2013年、同大学の卒業制作展にて学長賞および佐川美術館・栗和田榮一賞を受賞している。日本画材を用いた点描描写により、都市の人々が寝静まる「午前二時」の風景をテーマに制作しており、暗闇に浮かぶ灯りなどを通して、人類が築いた文明と人間の在り方を問いかける作品を特徴としている。

八木佑介「午前二時 拡がる光」日本画 40号
夜がすべてを包み込む「午前二時」、人々の気配が完全に途絶えた都市の一角が、静けさと光に包まれています。八木佑介の代表的テーマである「眠れる都市」を描いた本作《午前二時 拡がる光》は、日本画材と独自の点描技法によって、現代都市の複雑な構造と、それを静かに照らす灯りの繊細な美しさを浮かび上がらせています。交差する高架道路が幾重にも画面を横切り、画面下部に広がる交差点には、標識と白線が規則正しく配置されます。そこには人も車も存在しないが、街灯の橙色の光が舗装をやわらかく照らし、まるで都市そのものが呼吸しているかのような生命感を与えています。上空に浮かぶ青白いライトが遠くを仄かに照らし、無音の中に確かな文明の営みを感じさせます。

「拡がる光」とは、ただの照明ではない。それは、人間が築いてきた都市という巨大な構造体の象徴であり、同時に、存在の証でもあります。八木はこの静寂な夜の情景を通して、我々が日常に埋もれて見失いがちな「人の営みの痕跡」を繊細に描き出します。何も起こっていないように見える風景の中に、深く豊かな物語性が宿っています。40号に迫る大画面に丁寧に刻まれた光と闇の対話は、ただの風景描写を超えて、観る者に都市と自分自身との関わりを静かに問いかけます。時間が止まったかのような深夜の交差点に、観る者は思わず足を止め、耳を澄ませたくなるでしょう。