カメオ界において古来より愛される花の女神フローラのカメオです。
モチーフとしては大変人気で、バッカンテと並んで最も好まれた題材といっていいでしょう。
それゆえミュージアムクオリティの作品も多く、特にサウリーニ工房にて制作された作品は当ギャラリーにおいても最高クラスの評価がなされます。
今回のカメオはそうしたフローラのカメオの中では比較的カジュアルな雰囲気のある作品。
構図としては19世紀をとおして人気だったタイプですが、ご覧の通りやや彫り込みが少なく最上級の作品群にくらべて物足りなさは否めないところ。
ただし構図の整い方や整った顔つきから作者の技量自体は高いことが察せられ、おそらく腕のいい作者へ依頼はしたものの、比較的予算を抑えた注文によるものだったのではないかと思われます。
特に顔つきの綺麗さは本作の見どころで、綺麗に通った鼻筋とメリハリのある輪郭線の美しさはアンティークならでは。
その他、貝は外周部を使っていながら花に橙色を乗せた彫りといい、目に彫り込まれた黒目の表現といい、細かく見てみればよい仕事の光る一品です。
貝はややコントラス弱めなコルネリアン外周部。
この辺りの母材選別からも厳選された感じはない物の、先述の通りポテンシャルは最大限に活かしていると言っていいでしょう。
状態はまずまずで、ヘアラインは画面左上の背景部に数筋あるも、光にすかさなければわからない程度に収まっています。
ただ表面のナレは強めで、やはり芸術品色が濃い作品というよりは普段使いに向いた作品ですから、実際に使い込まれてきたであることが察せられる状態です。
フレームは銀製のハンドメイドフレーム。
ブローチ金具はC型クラスプで針の付け方も19世紀の様式ですが、おそらく20世紀前半に作られたものではないかと思います。
クラスプなので鉄砲式などよりは不安定なものの、かつての所有者によってガチっとピンがはまるように調整が成されていて、現状態でも実用に供するに十分な機能が残っています。
とにかく普段使いに特化した形のアンティークジュエリーですし、大粒なのでこれからの季節のコートの飾りやストール留めなどにご活用ください。