後藤純男（1930年千葉県生まれ～2016年没）は、日本画家で、真言宗僧としての修行を経たのち、川崎小虎の紹介で山本丘人に師事し、田中青坪にも学んだ。1954年に日本美術院小品展で奨励賞を受賞し、65年と69年には日本美術院賞を受賞、76年に文部大臣賞、86年に内閣総理大臣賞、2006年に旭日小綬章、2016年に日本芸術院賞・恩賜賞を受賞した。日本美術院では評議員、監事、理事を歴任し、東京藝術大学教授や福岡教育大学講師も務めた。北海道上富良野町に自身の名を冠した美術館を設立し、各地の寺院に襖絵を奉納するなど宗教的な活動も展開。作品は、層雲峡などの渓谷や滝、奈良・京都の古寺、中国の風景、大和の四季などを題材とし、色数を抑えた抽象性のある構図や、神秘性と峻厳さを感じさせる画風を特徴とした。

深山幽谷にひっそりと流れ落ちる一筋の滝。その静寂の中に息づく力強さと、永遠に変わらぬ清らかさを、作家・純男は本作において見事に描き上げています。幾重にも重なる岩肌を白布のように滑り落ちる水は、自然の律動そのものであり、見ている者の心を洗い、穏やかな静けさへと導いてくれるかのようです。滝の流れは、画面奥から手前へと流れる三段構成をなしており、奥行きと構図の巧みさによって、まるでその場に立ち尽くすかのような没入感を与えます。左右を覆う青葉は、初夏の澄んだ空気と瑞々しい命の息吹を宿しており、水と緑の対比が清涼な印象をさらに引き立てています。

日本画ならではの繊細な筆致と絹のような絵肌は、自然をモチーフにしながらも、単なる写実を超えて、精神的な深みと祈りにも似た美意識を漂わせます。金箔や金泥による雅号と落款もまた、作品全体に格調と品位をもたらし、静かに佇むように画面を引き締めています。観る者の心を静謐の世界へと誘うこの作品は、和の空間はもちろん、現代的なインテリアにも調和し、空間に潤いと気品を添えることでしょう。伝統の技と自然美が融合した、まさに現代日本画の醍醐味を体現する一枚です。