小田切訓（1943-2021）は北海道雄武町生まれの洋画家で、札幌旭丘高校第1回卒業後、明治大学を卒業。1975年にブロードウェイ新人展や一線美術展に入選し、1977年に東京で個展を開催、示現会・東光会展に入選し、以後も日展や現代洋画精鋭選抜展で受賞を重ねた。示現会では佳作賞や奨励賞を複数回受賞し、1990年には示現会安田火災美術財団奨励賞を受賞、同会委員を務めた。2000年まで日展に入選を続け、2014年に無所属となり、2015年には紺綬褒章を受章。洗練されたシャープな描線と透明感ある独特の色彩が特徴で、特に「小田切グリーン」と称される樹木の色彩表現が評価された。情景豊かな作品世界を確立し、東京、大阪、名古屋、仙台、札幌などで個展を多数開催しながら、独自のリアリティを追求し続けた。

小田切訓「運河に沿って」油彩 30号 大作
本作「運河に沿って」は、洋画家・小田切訓（1943-2021）が手掛けた雪景色の都市風景であり、30号の大作にふさわしい広がりと迫力を備えています。画面には、赤レンガ造りの歴史的建築や荘厳な教会が立ち並び、その前を路面電車や人々が行き交い、手前には運河と小舟が描かれています。街の喧騒と冬の静謐が交錯する情景が、観る者をまるで現地に立っているかのように引き込みます。雪に覆われた道や並木は、厚塗りとシャープな描線で表現され、冷たい冬の空気を肌で感じられるようです。その一方で、鮮やかな黄色の路面電車や赤い車が画面にリズムを与え、都市の活力を強調しています。背景の淡い紫がかった空は透明感を湛え、雪の白との対比によって、都市全体を包み込むような静かな詩情を生み出しています。

小田切訓は生涯を通じて、風景の中に独自のリアリティと色彩を追求した画家であり、「小田切グリーン」と称される樹木の表現にも象徴されるように、自然と都市の共存を独自の眼差しで描き続けました。本作においても、都市建築の存在感と自然の調和、人々の営みが一体となって表現されており、まさに画家が確立した「情景豊かな作品世界」を示す一枚といえるでしょう。大画面に展開されたこの冬の都市風景は、小田切訓の芸術観を凝縮した大作であり、観る者に都市の美と詩情を同時に感じさせる作品です。