村上肥出夫（むらかみひでお、1933年～2018年）は岐阜県出身の画家で、独学で油彩を学び、粘土や鉄錆など身近な素材を絵具代わりに使うなど独創的な制作姿勢で知られる。路上生活を送りながらも、彫刻家・本郷新の紹介により兜屋画廊に見出され、多数の個展を開催。1963年の松坂屋巡回展で注目を集め、1964年には「巴里ー紐育ー東京を描く油彩・素描展」でマスコミの注目を浴びて画壇の寵児となり、1972年にはパリの「サロン・ドートンヌ」で銀賞を受賞した。作風は、乾いた厚塗りによる荒々しくも静謐な街景が特徴で、「ものの終末を肌で感じとってしまっているような目差し」と評される。川端康成や石川達三ら著名作家からも注目された異色の存在である。

村上肥出夫 油彩 10号
村上肥出夫（1933-2018）によるこの油彩画は、彼の孤高の芸術観を凝縮した傑作です。この作品の最大の特長は、絵具をカンヴァスに叩きつけるように極限まで盛り上げるインパスト（厚塗り）技法にあり、まるで彫刻のような荒々しいマチエール（絵肌）が、独学で画壇の寵児に上り詰めた村上氏の壮絶な人生と独自の制作姿勢を体現しています。

ヒマワリがモチーフとされながらも、氏は粘土や鉄錆をも用いたとされる土の塊のようなテクスチャで描くことで、花という儚い存在に根源的な生命力と荒々しい終末感を与えています。また、花々を囲む鮮烈なターコイズグリーンやコバルトブルーの寒色系と、背景の淡いピンクやテラコッタ色の暖色系が激しく対立する色彩の構成は、彼が持つ天性の色彩感覚を雄弁に物語っており、鑑賞者の視線を強く惹きつけます。この力強い作品は、村上氏の初期の「荒々しい街景」の画風が、強いエネルギーを保ちながらも、より色彩の探求へと向かった一端を示す貴重な一点であり、彼が生涯を通して追い求めた物質と精神のぶつかり合いを表現しています。