八木恵子（やぎ・けいこ）は1986年佐賀県生まれの日本画家で、筑波大学芸術専門学群を卒業後、日本美術院研究会員として活動し、現在は静岡県に在住している。2018年に美術新人賞デビュー2019準グランプリを受賞し、2020年にはKENZAN2020で池永康晟賞、池袋アートギャザリングで栗原画廊賞を受賞、2021年には絵画の筑波賞奨励賞を受賞するなど、気鋭の女性画家として頭角を現している。作風は、日常に垣間見える女性の自然な表情や何気ない仕草を繊細に描き出す点が特徴で、装飾的な背景表現の中に女性の内面世界や物語性を感じさせる作品世界を構築している。

八木恵子「潜熱のパレード」日本画 30号 共シール 東急日本画展出品作 HP掲載作品
朱赤の画面に金泥で描かれた装飾文様が華やかに広がる中、一人の若い女性が白百合の花を手に、ゆるやかに歩を進める。八木恵子による《潜熱のパレード》は、静寂の中に情熱と祈りを秘めた幻想的な日本画作品です。女性の整った顔立ちは端正で気品にあふれ、滑らかで白磁のような肌の質感や、柔らかく流れる髪の描写には、作家の高度な技術と細やかな観察力が光ります。緑のドレスの質感、金のリボンや髪飾りなど、衣装の装飾性と色彩の抑揚が、女性の精神的な深みと優雅さを際立たせています。

タイトルの「潜熱」とは、表面には現れないが内に秘めた熱、すなわち人の内面に潜む感情や祈り、記憶といった目に見えぬ力を象徴しています。作家が一貫して追い求めるのは、「特定の誰か」ではなく、「想いや祈りの集合体」としての人物表現であり、本作もまた個人を超えた普遍的な魂の肖像として成立しています。画面に広がる文様はただの装飾ではなく、歴史や文化、人の営みの蓄積を象徴する背景として機能し、まるで祈りの場であるかのような神聖さを漂わせています。作品全体が静謐でありながらも、強い意志と感情のうねりを内包しており、「パレード」という言葉が示すように、時間や物語がゆっくりと進んでいくような印象を観る者に与えます。

《潜熱のパレード》は、見る者それぞれの内面にそっと寄り添い、静かな熱を呼び起こすような、日本画ならではの美しさと精神性に満ちた一作です。画伯の美人画の名画です。