鈴木政輝（すずき まさてる、1924年生まれ、長崎県島原市出身）は、島野重之に師事した画家で、帆船や海洋を題材とする作品を多く手がけ、国内外で発表を重ねました。アジア初の帆船フェスティバル記念展（1983年）を大阪で開催したほか、運輸大臣賞（1988年）を受賞し、作品は船の科学館や中国北京市市長室、大阪市、横浜市、運輸省大臣室などに収蔵されています。帆船や海を研究・取材対象とする作風が特徴です。

鈴木政輝「航路映ゆ」油彩 8号
夕映えの空と静かに波打つ海原を背景に、堂々と帆を掲げた帆船がゆるやかに進む本作「航路映ゆ」は、海洋画の第一人者・鈴木政輝による作品であり、その卓越した写実描写と、詩的な情感が見事に融合した一枚です。柔らかな桃色と黄金色がにじむ空は、日が沈むひとときを捉えたもので、穏やかながらも確かな移ろいを感じさせます。海面にはその光が静かに反射し、波間に揺れる紅のきらめきは、まるで航海者の道しるべのようです。構図の中心に据えられた帆船は、風を孕んで力強く進みながらも、どこか凛とした静謐さを湛え、観る者に深い安心感と希望をもたらします。

「航路映ゆ」という題名には、未知への旅立ちや、人生の道程に光が差す様子への画家の願いが込められているように感じられます。鈴木は、ただ帆船を描くのではなく、その背後にある自然の美しさ、時間の流れ、そして人間の精神の高揚と内省を、絵筆を通して映し出しています。限られた画面の中に、空と海の広大さ、風の気配、そして静かに前進する意思が精緻に描き込まれた本作は、観る人に深い余韻と想像の航海を誘います。まさに、鈴木政輝が描く「海の詩情」が結実した、心に残る秀作です。画伯の帆船画の名画です。