E ケアと対人援助に活かす瞑想療法2010/9/16 大下 大圓

E ケアと対人援助に活かす瞑想療法2010/9/16 大下 大圓 收藏

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商品の説明

著者からのコメント

本書は、ひろく現代人のための瞑想療法入門書です。
特に臨床現場や対人援助を主な活動とする医療関係者、福祉関係者、教育活動者、企業や会社で人事・労務・研修を担当する人、家庭教育の場、学生さんなどを対象に、呼吸法を学び瞑想や観想を仕事や生活の中に活かしていただけることを目指しています。
これまで瞑想が、人の心身の機能を高め、精神安定や健康増進に有効であるという研究報告は、多くの分野で明らかにされてきました。一方、昔から日本では教育的な配慮から"静かに座ると"いう伝統的生活習慣が、情操の安定をもたらし、人格形成にも影響をもたらすとして、黙想や観想の機会が生活の中に生きていました。
しかし近代社会は快適で物質的に豊かな経済生活の優先するあまりに、欧米的なライフスタイルが主流になって、これまで優れた価値のある伝統文化としての座るという瞑想習慣を忘れようとしています。それだけではなく、多くの現代人が、セルフコントロールにすぐれた機能をもつ瞑想感覚を学習しないまま成長しているのです。
最近は特に家庭での人間教育力が低下し、ましてや学校などの教育現場においては具体的に黙想、瞑想を実習する教育プログラムは、一部の武道的活動においては採用されていても、全体的な空気としては宗教意識に対する誤まった偏見から十分に活用されないままになっています。多くの現場教師も管理教育のはざまで苦しんでいるのです。
瞑想は従来、宗教伝統においては心身の鍛錬に活用されてきました。しかし近年は特定の民族、宗教や地域に偏ることなく、世界のあらゆる場所や空間で人間育成や健康生成のプログラムとしてひろく活用されています。近年この瞑想はホリステックな視点で捉えられて、より積極的にセラピー(療法)や、ストレス緩和、病いへの気づき、心身の健康回復や、ストレスコーピングなど医学的、教育的に活用する傾向は徐々に増えています。
本書は全体に「実践編、活用編、理論編、未来編」の4部構成になっています。第1部では瞑想をあまり難しく考えず、自身のセルフコントロールのツールとして役立つように、実践的な視点からその活用方法を、写真やイラスト入りで紹介しています。本書を読んですぐにだれもが瞑想を実践できるように、瞑想の技法や心構えを解説し、私生活だけでなく、職場や臨床でも活用できるような実践プログラムを紹介しています。
第2部では、現代の臨床ケアや福祉、教育の分野で具体的に活用していただけるように、実際の事例や実施報告などを紹介しています。また医療の現場、精神保健、看護、緩和ケア、助産・子育て期、学童期、青年期、福祉、教育の現場、企業人、自死予防と家族支援のためなどで療法的に活用できる方向性を紹介しています。さらには実際に治療中の患者が瞑想によって、健康生成に有効であった事例や、瞑想を臨床ケアや対人援助に活用し、日常生活において瞑想実践を心がけている知友の所見なども紹介しています。
第3部は瞑想や瞑想療法の理論を私の視点から紹介しています。瞑想には洋の東西を問わず、さまざまな瞑想の理論や活用法があります。伝統的宗教では瞑想がどのような位置を占めたかを私の読み解き方で紹介しています。また近代では瞑想を生理学的、精神医学的、教育学的など学際的研究領域から考察されています。
第4部は瞑想の未来にむけてのメッセージを織り込んでいます。近代のホリステックケアやスピリチュアリティ研究とも連携して、そのネットワークの意義と発展が期待されています。瞑想療法の定義に関する課題や、瞑想と健康生成の関連、成長モデルとしての瞑想療法、統合瞑想の方向性について語っています。
本書はこころのケア(スピリチュアルケア)に瞑想を活用して、自身の生きがいに役立ててもらうための実践的指南書となるように心がけたものです。しかし、私の非力さゆえに解説できぬまま諦めた領域もあります。たとえば日本仏教の禅宗の伝統です。臨済宗や曹洞宗でおこなわれている禅生活のようすは、あまりにも膨大で、本書に紹介することはできませんでした。むしろこの分野に関する参考書籍は、山のように出版されていますので、是非そちらをお読みください。
仏教の瞑想も近代の瞑想も実はさまざまな方法と目的をそなえています。専門的な瞑想を実践するには、最初はかならず明師(すぐれた指導者)にしたがって瞑想に深めることをお勧めします。
なお本書では、瞑想を対人セラピーとして解説するところでは、患者さんや利用者さんなどの対象者をすべてクライエントと表現しています。クライエントとは「セラピストと対等な立場にある人、自らの力で成長していく自己治癒力のある人、より大きな統合性と独立性を目指していく人」です(参考:カール、ロジャース、『カウンセリングと心理療法』、1942)。これを仏教的な表現をするなら「同行二人」であり「自利利他」です。喜びも悲しみの慈悲喜捨の精神で一緒に人生を歩んでいく関係性に他なりません。

著者について

大下大圓(おおしただいえん)プロフィール
1954年、飛騨高山市生まれ、飛騨千光寺住職、高桑内科クリニック・臨床スピリチュアルケアワーカー、高野山伝燈大阿闍梨。
高野山大学客員教授を経て和歌山県立医科大学、名古屋大学などの非常勤講師
12歳で出家、高野山で仏教、密教を修学した後に、スリランカで初期仏教と瞑想を修行する。飛騨で25年前より「いのち」の学習会として「ビハーラ飛騨」「地球人ネットワーク飛騨」を主宰し、ベッドサイドの傾聴活動やまちづくり、NPOボランティア活動を続け、「飛騨にホスピスをつくる会」会長として、緩和ケア、在宅ホスピス運動を実践。
千光寺「自由なこころの道場」では、心の相談やカウンセリング、瞑想療法を主体とする研修会を行い、全国で講演やワークショップを展開している。
現在、京都大学こころの未来研究センターで瞑想療法の研究のほかに、日本スピリチュアルケアワーカー協会副会長、日本スピリチュアルケア学会、日本ホスピス在宅ケア研究会理事、岐阜県音楽療法士など。
『主な著書』
「いい加減に生きる〜スピリチュアル仏教のすすめ33」講談社
「他人(ひと)の力を借りていいんだよ〜縁生で生きる仏教の知恵」講談社
「癒し癒されるスピリチュアルケア〜医療、福祉、教育に活かす仏教の心」医学書院
「手放してみる ゆだねてみる」日本評論社 ほか

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第1章 瞑想の基本プログラム1 初めて暝想する前に知っておくこと
あなたは瞑想を難しいものと思っていませんか? いいえ、心配いりません。瞑想は決して難しくはないのです。まずは「難しい」という「とらわれ」をはずし、「初めての自分にも楽しくできる」と瞑想へのイメージを変えるところから出発しましょう。
瞑想は「自心」との対話です。それはつまり、内なる(・・・)わたし(・・・)のメッセージに耳を傾けることです。あるがままに自己の今の心を観察し、やがて自分にとって必要な答えを見出せる、というすぐれものなのです。瞑想は「時、場所、年齢、性差、思想、信条」を超えて、「自分のための大切な時間を確保する」という自己コントロールの実践的ツールで、人類普遍の叡智ある賜りものです。ですから瞑想には古今東西さまざまな理論や方法によって構成されています。
かつての瞑想は宗教において心身のトレーニングとして重要な修行法でした。しかし近年は医療や福祉、教育の分野で、ストレスリダクション、セルフコントロールや対人援助のスキルとしての瞑想実践の研究が、盛んにおこなわれてきています。『心理療法辞典』(1999、青土社)には、瞑想(Meditation)とは「変成意識状態の枠内で生み出された、内的な静けさへの自己意識状態の誘導」とあり、その目的とするところは「弛緩の促進、ストレス緩和の援助、自尊心を高めること、集中力の促進、現在中心の意識の発達、洞察の促進」とあります。この意味からも瞑想には多義的な解釈、方法や目的があることが理解されます。
そういう理論的背景は第2部と第3部で詳しくで述べることとし、まずは今のままのあなた自身が瞑想というものを気軽に体験をすることから始めてみましょう。
瞑想の流れを全体的なところから説明すると、「準備」「導入」「中味」「高まり」「終焉」のような順序になります。
あくまでも流れですので、これについて以下にくわしく説明をしていきましょう。
1)暝想、その前に
身体のバランスを確認する
いきなり「瞑想をやれ」といわれても戸惑うばかりだと思いますが、実は瞑想の前に確認しておくことがあるのです。スポーツをするときに必要な道具や準備体操をしてからでないと、思わぬ怪我をしてしまう。それと同じです。
例えば、バドミントンをやろうと友達が誘ってくれたので、公園でやることになりました。そのときには、まずバドミントンの羽やラケットの道具がないと始まりません。それだけではなく、バドミントンができるような服装が大事です。動作が思うように機能しないような洋服や和服ではバドミントンは困難です。また地面がでこぼこでぬかるんでいるようなところでもできません。さらに履物も下駄やサンダルのようなものでは思うように動けません。さらに準備体操もせずにいきなり体を思いっきりひねったり、腕を振り回したりすると、アキレス腱を切ったり、思わぬ怪我をすることもあり、あとで筋肉痛や捻挫もしかねません。こんなふうに、一つのスポーツもいいとわかっていても最小限の準備は必要なのです。
瞑想は坐るだけなので、そんなに準備はいりません。でもここに大きな落とし穴があります。坐るだけなのですが、ある程度の時間(5分以上)を同じ姿勢で保持するので、不自然な姿勢では心や体はかえって疲れてしまい、効果が損なわれます。そこで、瞑想を行なうための最小限の心と身体の準備が必要となります。
まずは静かな環境から
まずは瞑想を行なう場所から考えましょう。
基本的に瞑想は場所を選びません。本来は坐る場所さえあれば、どこでもできるのです。私はよく旅に出ますが、移動で利用する飛行機や電車や列車、車の中で瞑想することがあります。また待合のイスや仕事の合間の時間などでも三昧(さんまい)(sama(ー)dhi=やすらかで平安な意識状態)に入ると、たとえ周りの騒音がうるさいところであっても、自己に集中することができます。しかしこれには少し訓練が必要かと思います。
初めて瞑想をやろうとする人は、やはり静かな環境を意図的に作ることをお奨めします。それは本当にどこでもいいのです。あなた自身のライフスタイルのなかで「自分が今私自身のために静かになれる処」それが瞑想の環境です。
ある人は、自分専用の瞑想ルームを自宅に造りました。自宅の庭先に一軒四角の2畳ほどの絨毯敷きの個室です。そこは照明もコントロールでき、音楽も聴けるような装置も配置して、本格的な瞑想環境を演出しています。またマンションの一室を瞑想ルームにしている方もいます。ここまでくればホンモノでしょうが、一般の方にとって、瞑想ルームなどは願ってもなかなか手に入りません。
でも大丈夫です。瞑想は専門の部屋がなくてもいろんな工夫次第でなんとでもなります。大家族で暮らしていても静かな時間は、あなた次第で作れるのです。自宅あるいは公園、あるいは仕事の空き部屋、どこでもいいので自分なりにひとりになれて、その空間が誰にも邪魔されず、少しの時間を確保できる場所であればOKです。
お仏壇や神棚のある家だったら、そこを瞑想の場所に定めて、お参りする前後に瞑想を組み込むことも可能です。瞑想はどんな宗教にも普遍的に存在する祈りの行為として価値もありますので、宗別、宗派を問わずにどこでも行なっていいのです。
ただし、坐るために水平レベルなどを考えると、比較的平面が確保されているとこをお奨めします。瞑想する場
所が傾いていては、気持ちや心も定まりません。野外で瞑想するときも、なるべく平坦な場所を選んで行なうのが
効果的です。ヨーガの行法でも「安定した、快適なもの」のさだめがあります。
私は密教の修行時代には山野に寝起きしたこともあります。また四国のお遍路をして歩いたときは、海辺の海岸や草原などを選びました。また山の中では、見晴らしが利くところや山の頂上、谷川のほとりで悠々と流れる水の音を聞きながら深い瞑想に入った事もあります。「今わたしが座っている場所は、とても安心できるところなのだ」と最初に自分に言い聞かせられるところであれば、それでいいのです。
そこが畳でも絨毯でもなんでもかまいません。ただし、床の色は好みもありますが、暖色を用いると安らげる傾向にあります。これもカラーセラピー的な視点から論じ始めると、難しくなりますが、要は自分にとって落ち着ける環境づくりを心がけていただければいいのです。
用便は済ませておくに限る
場所が決まったら、次にはお手洗いを事前に済ませておくことが肝心です。瞑想の途中で心が安定し、三昧が深まってきたときに、排尿をもよおすようでは、集中が半減してしまいます。膀胱が満ちていては、三昧も入りにくいので、身体の反応として用便を済ませておいてください。
大便はもちろんですが、小便についてはその人の日ごろのパターンがあるでしょうから、時間に配慮して事前の用便を心がけてください。瞑想に関する手引書などでは、この用便についてあまり触れられていませんが、実は専門的な瞑想修行をしていくためには、おろそかにはできないことです。私の経験ですが、密教の修行をおこなうときは1回の堂籠もりが長時間にわたるここともあって、調整を誤ると大変苦労をします。それはお堂に入るときには、1回ごとに沐浴(水をかぶる)をするために、用便した場合も再度沐浴して身を清めてからでないと堂内に入れないからです。
夏ならまだしも、私の高野山時代の修行では真冬の氷点下でおこないます。一日ニ食(精進の粗食)での修行で1回の用便と沐浴に費やす時間と体力消耗を考えると、なるべく堂内にはいったら動かないほうがいいのです。
あなたに専門的な修行をしなさいといっているのではありません。もし在家(出家しないで一般家庭で生活すること)のままであっても、将来において瞑想を生活に取り入れ、ある程度専門的な瞑想ライフを生きようとするならば、はじめから瞑想前の用便の習慣はつけておいたほうがいいということです。
つまり不安材料をはずして、瞑想は自分のために「安心の時空づくり」であることを、生活習慣としてマスターすることなのです。このことはいろんなライフスタイルに応用されますので、最初は意識して心がけるようにしてください。
服装はリラックスできるものが一番
服装に決まったものはありません。基本的にはあなたが選ぶなら、どのような格好で瞑想をしようと、それは自由です。
最近は瞑想時に作務衣を着て、日常とは違う気持ちで瞑想を楽しむ人が増えています。これは大変結構なことだと思います。ある意味で、瞑想は日常ではない時間、つまり「非日常」の時間を確保して、自分のために心やスピリチュアリティを高めることですから、そこに特別な意味や意義をもたせて瞑想することはとても有用なことです。
自分なりの瞑想コスチュームに着替えて、「ようし瞑想をするぞ」と自分に言い聞かせて始めるのも動機づけとしていいかもしれません。
服装で注意すべき点は、体をいたずらに締め付けないようにするということです。ベルトなどもなるべくしなくてすむようなズボンやスラックスがいいでしょう。もともと「こころを開放し手放す」ことが瞑想の目的でもあるので、窮屈で坐りづらい服装はあまりお奨めできません。下着もあまり締め付けないようなものがいいですね。
私は修行時代にはサラシの褌(フンドシ)をはいていました。夏も冬もこれが一番でした。下世話な話ですが、長時間坐ると股の付近には空気が通わず蒸れやすいので、通気性のある褌が一番なのです。
現代はいろんな服装がありますから、こだわらずラフな服装でいいのです。Tシャツでかまいません。要は呼吸が十分に確保されて、肩にも脚にも窮屈さを感じないラフな格好が一番なのです。私たち出家者は白衣と色衣のままで瞑想する訓練をしてきましたので、やはり作務衣が一番楽ではありますが。
2)暝想を始めましょう
6つの座法、ただしどれでもいい
瞑想の姿勢は基本的には静座です。坐って背筋が伸びる状態を保てれば瞑想に入れます。
しかし、病気などや障害があってどうしても坐っていられない方は、横臥体として寝そべったままで瞑想もできます。ただ人は横になって、深い呼吸をするとリラックスしてそのまま、睡眠に入ってしまうことがありますので、瞑想前には十分に睡眠をとっておくことが肝要です。
最近は、日本人でも正座をする習慣がないために、畳や床にちゃんと坐れない人が多くなりました。体型は立派ですが、どうも坐る姿勢がアンバランスになっている人を見かけます。昔は僧堂で座法については厳しく指導しましたが、近年は生活習慣の違いから、あまりやかましくいわないところもあります。むしろ瞑想そのものが大事ですから、その人なりに工夫して椅子やソファーを利用した楽な姿勢の瞑想愛好者が増えているようです。瞑想まえに軽い柔軟体操をしておくことも、心身のバランスをとる意味ではとても大切なことです。
仏教の宗派によっては、いまも厳格に姿勢を指導しているところもありますから、その瞑想指導者の指示に従うようにしてください 本来の瞑想は、中味が肝心です。スタイルについては、歴史的にもさまざまな教えがあることを理解してください。
整理しますと座法には、次の6通りがあります(写真1‐6)。
1 結跏趺坐(けっかふざ)(蓮華座):両足を互い大腿部の上部に乗せて組むこと
2 半跏坐(はんかざ)(半蓮華座):片方の足を、一方の大腿部の上部に乗せて組むこと
3 大和坐(やまとざ):アグラをかくが足を組まない
4 イスに坐って静座を保つ
5 正座をする
6 横臥体になって、姿勢を穏やかに保つ
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