縦:約50㎜
横:約41㎜
作者:-(アンティーク)
QR:アーティスティッククオリティ+
アンティークカメオとモダンカメオの大きな違いのひとつに、モチーフの傾向があります。
1800年代はイギリスを中心に、そして1940年頃から1960年頃のモダンカメオの時代はアメリカを中心に流行したカメオは、さらに時が下り1980年代より現在にいたるモダンカメオの時代は日本がその流通の主流となってきました。
この市場の移り変わりでの顧客の需要の変化にこたえる形でカメオのモチーフは主流となるものが変わっており、かつては多く見られたキリスト教の色の濃い作品も、現在はあまりみられないものとなってきております。
今回の作品はキリスト教の救世主たるナザレのイエスその人を描いたカメオです。
実はイエス単独というのは当時においてもやや珍しいモチーフでして、聖母子や聖母子とヨハネ、それにキリスト降架といったカメオはたびたび見かけるのですが、単独で描かれるものは滅多にありません。
稀に見られる単独で描写されたものは非常に出来の良いものが多く(半端な作品は畏れ多いのでしょうか…)極めて精緻な彫りで写実的に描かれたものが書籍などでも見られます。
さて、そんな書籍等で見られるキリスト像の良作のなかに、比較的よく見かける作品があります。
それが本作、正確には本作と同じ作者によるキリスト像のカメオです。
本作の作者は同様の作品を多く作っていたようで、同系の作品がよくみられ、品質のいいイエス像のカメオの画像をさがせば必ずと言っていいほど目にします。
素材もいろいろなものが見受けられ、実は以前当ギャラリーでもコルネリアン三層彫りの作品をご紹介しましたが、今回はサルドニクスのカメオで、モチーフとしても少し違う様子。
一見すれば目を閉じうつむいた物静かな風貌や他類作と同様綺麗に編まれた茨の冠や巻き毛の美しさが目を引きますが、よく見ると雫のようなものが彫り込まれております。
これはイエスの血を表現したものとされ、サルドニクスの真っ白な像とあいまってより強くイエスの最期を思わせるものである一方、原罪の贖いと救いをより強く示したものでもあり、同系統の血の無いキリスト像と比べるとより宗教色を強く表現したものといえるでしょう。
貝はカフェオレ色の地にくっきりとした白色のサルドニクス。
やや白色層が薄い母材で、表面の摩耗も相まって少々ディテールに乱れが見られます。
傾向としてこの手のカメオは実際に佩用されていたものが多かったようで、貴金属目的でフレームを奪い去るような輩のいないイギリスにおいては特異的といえるほどフレームを失い、表面もすり減ったものが多い印象です。
その他スレやクリーニングしきれない汚れ、裏面3時位置の小さな縁欠けなどがあり、アンティーク品としての歴史を思わせる状態。
ちなみに本来はカタログクオリティ以上の作品ですが、これらの状態を加味した上で美術品としてはややランクが落ちるものと判定し反映しております。