縦:約45mm
横:約58mm
作者:フェルディナンド・セルペ
QR:アーティスティッククオリティ+
セルペ氏は齢50半ばという年齢的には中堅の作者ですが、若い頃から卓越した技術と他の作家にはない独自性とを確立した数少ない職人です。
こと風景物においてはジョヴァンニ・アメンドーラ以来の名手であり、さらに同氏の美しい直線と貝の濃淡を巧妙に活かした技法から生まれる作品は、より絵画性を高めた新しいカメオとして一つの時代を切り開いたといったも過言ではありません。
実際チーロ・オリス・マラッツォ氏やラファエレ・ヴィティエロ氏の彫る水影の素晴らしいヴェネツィアの風景物などは明らかにセルペ氏の技法に影響を受けたもので、他にも後に続く優れた風景物の作者たちに少なからず影響を与えており、この点から見てもその存在の重要性は明らか。
現在は芸術学校の教員が本業であるらしく、カメオ彫刻師として積極的に活動しているわけではないため作品数はさほど多くないものの、同氏の作品はシェルカメオに詳しくない人が見ても優れた作品だということが分かるレベルにあり、日本においても大変高い人気を誇る作者の一人として知られております。
今回のお品物はセルペ氏作品の中では中期のものと思われる海辺の風景を描いたカメオ。
全体的にはいかにもセルペ作といった感じで、構図と彫りの正確さを見ればサインを改めるまでもなくフェルディナンド・セルペ作と分かる特徴的な作品です。
出来について言えば、構図面に関してはおおむね完成されており色の濃淡の使い方も綺麗ですが、表現に関しては最盛期の作品と比べるとやや粗削り。
水辺を描いたカメオであるにもかかわらず水影の描写がないことや、画面内の主張もやや暴れ気味な点をみれば、セルペ作の神髄はまだまだこんなものではないぞといった感じでしょうか。
ただし構図面、彫刻技量ともに現代カメオの並のレベルは大きく超えている段階には至っており、画面内に描かれた枠の上に乗るように描かれたマストや、画面左下のカヤックの大きさからはダイナミックかつ非常に動的な印象を受けます。
画面の主張が暴れ気味とは書いたものの、しばらく眺めていればむしろそれでにぎやかささえ感じられるのが存外悪くないといいますか、なんならセルペ作の中でも技術的に評価が高い画面全体の統制が取れたカメオにはない面白さがあって、これはこれで良作なのではと思ってしまう不思議。
総じてみればぱっと見た感じではセルペ作でありながらもその実セルペ作ではなかなかない方向性の作品といえ、これ1枚でもその良さを感じられるのはもちろん、数点のセルペ作を持っていればなおその面白さが感じられるコレクション向きな作品といえるかもしれません。
貝はコーヒー色の地に白色濃い目のサルドニクス。
中間層が薄く、グラデーションを活かすよりコントラストを活かした方が扱いやすい母材にみえますがそこはフェルディナンド・セルペ、それでも無駄な色斑のない綺麗な色使いです。
ヘアラインは褐色層に散見されるも順光でみて目立つものでなく、またマストやロープ、パドルなど細く彫られた各部も欠落等一切ない新品同様の状態です。
フレームはK18製。
作品は90年以降のはずですが珍しく風車式のブローチ金具がついており、ペンダント金具はDカン仕様です。
おそらくこちらもほとんど未使用の状態と思われ、ピンの曲がりものなく、落下防止用のシリコンパーツも残っています。