1897-1978 文化功労者、日本芸術院会員、二科会会長の洋画家、鹿児島県生まれ、有島生馬に師事、憂いを帯びた女性像で広く知られる洋画家、1916年の第3回二科展に初出品、未来派の影響を受けた絵画で二科賞受賞を果たし、鮮烈な画壇デビューを飾った、以後、気鋭の前衛画家として活躍し、21年には渡欧、本場イタリアで未来派の運動に参加したほか、フランスでパブロ・ピカソや藤田嗣治らとも交流、28年に帰国、戦後は二科展を中心に画壇復興に尽力、繊細な色遣いで、透きとおるような肌、しなやかなしぐさ、伏し目がちで夢見るような表情の「青児美人」を描き一世を風靡した

東郷青児「婦人像」油彩 6号 東郷青児鑑定委員会鑑定書付
本作「婦人像」は、東郷青児が生涯をかけて追求した理想的な女性像。いわゆる“青児美人”の美学が、静かに、しかし端正に結晶した一枚です。黒を基調とした背景に、白く流れるような髪をもつ女性が柔らかい光を帯びて浮かび上がり、その姿はまるで夢の中から現れたかのような幻想性を宿しています。顔の輪郭や腕の線はなめらかな曲線でまとめられ、余分な描写を排した簡潔な造形は、東郷独特の洗練されたモダニズムを象徴しています。女性が胸に抱くのは、淡いピンク色のチューリップ。やわらかな色調と控えめな存在感は、作品全体に優しさと気品を添え、女性像の静謐な佇まいを一層際立たせています。伏し目がちに感情を抑えた表情表現あるいはあえて目鼻立ちを省略するという手法は、個人を超えた“普遍の美”を描こうとした東郷の美意識そのものです。

東郷青児（1897-1978）は、有島生馬に師事し、若くして未来派の影響を受けて二科賞を獲得、のちに渡欧してピカソや藤田嗣治らと交流しながら独自の画風を確立しました。戦後は二科会会長として画壇復興に尽力し、文化功労者・日本芸術院会員として日本洋画史に重要な足跡を残しています。本作にも、戦後以降の作品に特徴的な、すっきりと抽象化された線、透明感ある色面、そして女性像に漂う穏やかな憂いが見事に表現されています。東郷の代表的な制作姿勢を体現した、気品と静寂をまとった佳品といえます。飾る空間に優雅な余韻と上質な静けさをもたらす、極めて完成度の高い一作です。