島田章三（1933年7月24日～2016年11月26日）は、日本の洋画家で、日本芸術院会員、文化功労者。神奈川県浦賀町生まれ。東京藝術大学油画科で学び、国画会展に初入選後、国画会会員となる。愛知県立芸術大学の教授・学長を務める。1967年に「母と子のスペース」で安井賞を受賞し、パリ留学を経てキュビスムの「絵を思考する」姿勢に影響を受け、色面・線・画肌を軸に再構成する「かたちびと」のテーマを展開。人物や動物をモチーフに独自の造形言語を確立し、東郷青児美術館大賞（1980年）、宮本三郎記念賞（1990年）、日本芸術院賞（1999年）を受賞。代表作に「炎」「波」「鳥からの啓示」「駅の人たち」などがあり、形をリリシズムで扱う日本のモダニズムを引き継ぎながら、具象と抽象を融合させた表現を追求した。

島田章三「笛を吹く」油彩 4号 1980年作 共シール
島田章三《笛を吹く》（1980年）は、作家が長年にわたり追求してきた「かたちびと」の造形思想が、静かな人物表現として結実した作品です。笛を奏でるという具体的な行為が示されていながら、人物の顔や手は分割され、色面と線、そして厚みのある画肌によって再構成されており、単なる写実を超えて、思考や内面を内包した“形”として描かれています。
土や鉱物を思わせる抑制された色調と、削り盛りを重ねたマチエールは、島田がキュビスムから学んだ「絵を思考する」姿勢を色濃く反映し、画面に時間と精神性の奥行きを与えています。横一線に伸びる笛は画面構成の軸となり、静謐な均衡と緊張感を生み出すと同時に、音なき音楽の気配を視覚的に感じさせます。本作は、具象と抽象、感覚と構造を往還しながら、日本のモダニズムを継承した島田章三独自の造形言語が、穏やかなリリシズムの中に凝縮された一作です。