現在のメンバーのモードのあらわれでもあるオルタナ・ギター・サウンド。それを炸裂させながらも、何をやってもポップになってしまうコイルの本領発揮の1枚。文学的詩世界も圧巻だ。

風を読むのが上手い。
つまりはそういう人らによって作られた作品である。風を読めなければこんな流れるような舵取りは、ちょっと無理だ。宅録なのに風の表情に敏感だなんて、ちょっとしたマジック・ミラクルじゃないか。それはたとえば村上春樹や岡嶋二人が描く“部屋の中”に似ている。“君と僕”の密室には常に“風”の面影が。待望の2枚目は、そんな“密室”から風の匂いとともに貴方だけに届けられた12編の贈り物だ。なんなら一生、胸に抱きしめて生きていっても構わない。
なんて淡い作品なのだろうと訝しむ。だってこれ、ギター・アルバムなのに。“淡いギター・サウンド”といえばスーパーカーかもしれないが、本作の“淡さ”は、曖昧模糊の霧の中でハッキリとしたフォルムを作り上げているという点で画期的である。いつにないシリアスな横顔と相まり私は、まるで生まれてはじめて異性に口説かれている思春期っ子のようにドキドキバクバクドギマギしている次第で。現代に蘇るハート泥棒、処女作超えはこれにて完遂。もちろん「現在は過去を駆逐していく」なんていう類の勘違いは彼らには皆無だからご安心を。そして前作とは縁の薄かった方々はこの際2枚同時購入を。どうせ後で買いに行くなら二度手間撲滅にご協力を。生ドラムが入って、よりロックっぽく。そう言い出す人がいたら気を付けろ。彼らは産声を上げたその瞬間から紛れもないロック・バンドだ。何かと引き合いに出されるビートルズや奥田民生との共通項は、その緻密かつ奔放なバンド・サウンドに尽きる。そしてメロディやサウンドは完璧なフォルムであるが、オカモトとサトウの“想”は1ピース足りないジグソー・パズルだ。切なさをかき鳴らしながら、そこで自ら酔いしれてしまわない彼ら一流のセンチメンタリズムを最高に愛おしく思う。風を読める男には、こういう“照れ隠し”もできるのである。