代表的な画集には、『ひだまり』『こもれび』『はつ恋』『夢語り』などがあり、繊細なタッチと柔らかな色使いで観る者の心を惹きつけます。その他、CDジャケットやテレビドラマのタイトルバック画、広告イラストなど幅広い分野で活躍。個展では多くの観客を集め続けています。

太田慶文「少女期」ガッシュ オリジナル作品10号大 1994年作
本作《少女期》は、北海道出身の画家・太田慶文が1994年に制作したガッシュによるオリジナル作品です。ガッシュ特有のやわらかな質感と深みのある色彩を用いて、少女の繊細な横顔を抒情的に描き出しています。画面の中心に描かれるのは、淡い光に包まれた少女。長い髪を大きなヘアバンドで整え、伏し目がちに静かに遠くを見つめるその表情には、無垢さの中にふとした陰影が宿り、思春期の入り口に立つ少女の心の奥をそっと覗かせます。整った鼻筋や柔らかな頬、かすかに結ばれた口元には、可憐さと同時に内なる感受性がにじみ出ており、観る者の心に深く語りかけます。

背景には抽象的な色彩のグラデーションが広がり、現実と記憶の狭間に漂うような幻想的な空気を醸し出しています。光は静かに少女の横顔を照らし、時が止まったかのような静謐な空間をつくり上げています。作者の太田慶文は、少女や子どもたちを主題とした詩情あふれる作品で知られ、1981年には「詩とメルヘン 第1回イラストコンクール」最優秀作品賞、1986年には第12回サンリオ美術賞を受賞。画集『ひだまり』『はつ恋』などを通して、繊細なタッチと優しい色遣いで多くの人々に親しまれてきました。《少女期》は、そんな太田作品のエッセンスが凝縮された一枚であり、少女の一瞬のまなざしに、見る人それぞれの記憶や感情をそっと呼び起こすような、心に残る秀作です。