稲垣考二（いながき こうじ）は1952年愛知県生まれの洋画家で、愛知県立芸術大学油画科および大学院研修科を修了しました。1985年に国画会会員に推挙され、名古屋市芸術奨励賞（1993年）、裸婦大賞展優秀賞（1986年）、昭和会展優秀賞（1987年）、伊藤廉記念賞（1984年）、三越賞（1978年）など数々の受賞歴を持ちます。作風は、写真投影やCGに頼らない卓越した描写力で艶麗な作品を生み出すことに特徴があり、時代の流行に左右されず独自の画風を貫いています。油彩画、アクリル画、パステル、デッサンなど幅広い表現手法を用い、特に具象表現において高い評価を得ています。

稲垣考二「写り花」油彩 100号大 大作 2010年作
本作「写り花」は、稲垣考二が得意とする高度な具象表現と幻想的な世界観が見事に融合した大作です。画面には、花々に包まれるように横たわる女性が細密かつ柔らかな筆致で描かれ、彼女の肌には花の影が映り込んだような模様が広がっています。身体と花が溶け合うような表現は、稲垣が長年追求してきた「写実の中の詩情」を象徴する要素であり、作品に独特の神秘性と深い静けさを与えています。背景を埋め尽くす艶やかな花々、敷物の緻密な幾何学模様、肌に落ちる光の微妙な濃淡。これらすべてが、写真投影やCGを一切用いない稲垣の確かな観察眼と高度な技術によって描き出されています。色調は紫と紅を基調とし、現実と夢の境界を漂うような幻想的な雰囲気をつくり出し、横たわる女性の静かな表情と響き合って作品全体に優雅な時間の流れをもたらします。

稲垣は、油彩・アクリル・パステルなど多彩な技法を自在に操りながら、時代に左右されない独自の具象画を築き上げてきました。本作にもその精神が色濃く反映され、女性像の美しさだけでなく、自然と人間の交わりや内面の静謐さが豊かに表現されています。「写り花」は、彼の受賞歴に裏づけられた確かな力量と詩的感性が、ひとつの画面に凝縮された代表作といえるでしょう。