縦:約56mm
横:約43mm
作者:マリオ・ヴェントレスカ
QR:アーティスティッククオリティ
20世紀中期から後期にかけて活躍した芸術家マリオ・ヴェントレスカ。
カメオに作者が名前を刻むようになった1970年代以前、カメオの作者たちの情報はほとんど残っておらず、この時代にカメオの伝統を引き継いだ作者の多くはその名が知られることがありませんでしたが、一部はその後継ぎが現在まで残るなどの経緯を経て現代に知られております。
マリオ・ヴェントレスカ氏もそんなひとりで、アパ工房所属の作者の中では数少ない個人銘を残した作者であったことや、息子のジョヴァンニ・ヴェントレスカ氏が現代のカメオ作家のなかでも指折りの名匠となっていることから、その父であり師でもあった存在としてその名が知られております。
日本の書籍などによればカメオの彫刻のみならず絵画なども手掛けていた芸術家だったというくらいの情報しかありませんが、息子のジョヴァンニ・ヴェントレスカ氏より伺ったお話によれば、カメオ彫刻師としてはジョヴァンニ・ノトの直弟子のひとりであったとのことで、実際に残されたカメオはノトの作風を色濃く受け継ぎ、また構図やデザイン面において絵画的素養を感じさせるなど、確かにナポリみやげのカメオ職人とは一線を画する芸術カメオの担い手のひとりであったことが作品からもうかがえます。
今回の作品はノトの作品をもとにした模刻作のひとつ。
全くの偶然ですがオリジナルのノト作も別のルートから当ギャラリーに入ってきておりオリジナルは1970年代(参考として画像5に掲載)、本作の年代は1980年代でノトが現場を退いた直後の作品とみられ、ノトの監修銘が入っているものの、彫りの面ではノトの手は入っていないようです。
そのため髪や顔つきはノトの仕上げによるコマーシャルピースほど繊細さは無いものの、特色はよく抑えていて、ノトの直系であることがよくわかる作品です。
また、ノトのデザインを模倣した作品は作者を問わず非常に多くありますが、玉石混交のそれらのなかでも構図のバランス感や顔の綺麗さは随一で、後年のG.APA銘の模刻作と比べても一段上にある作品といって差し支えないでしょう。
貝は濃い目のカフェオレ色の地色にくっきりとした白色の乗った良質なサルドニクス。
裏にはG.Notoの銘がありヴェントレスカ銘はありませんが、当時カメオに作者が自身の名を入れるの習慣はまだ一般的でなかった(特にアパ工房においてはその後においてもG.APA銘で個人名を入れる習慣はなかった)ことや、ノト本人の単独作およびヴェントレスカ銘のある他作品との比較から、このサインはあくまで監修銘であると鑑定しています。
状態は非常によく、ヘアラインも褐色層・白色層ともに見当たらず、表面のナレなどもなくて40年前の作品とは思えないほどきれいです。