大型図録本 水墨画家江兆申作品集 近代中国美術 水墨画集 山水画 釈文 印譜 作品解説
江兆申 (著)
楚戈 (編集)
大野修作(訳)
1982年 初版
二玄社
94ページ
約37x26.5x1.8cm
ハードカバー
カラー・モノクロ
※絶版
中国近代美術を代表する水墨画家、江兆申の大型図録本。
山水画・水墨画36点、書作品5点、印譜56点、専門家による
各作品の画に書き添えられた中国語の釈文、隷書、鈐印の記載、作家の制作風景写真あり。
巻末には全作品の日本語解説、寸法、製作年を付したもの。前半カラー、後半モノクロ。
大判サイズのため、細部まで見て取ることのできる情報満載の大変貴重な大型画集・作品集・資料本。
江兆申に関する書籍は類書もほとんど無く、山水画・水墨画・書・篆刻・掛軸等愛好家必携の一冊です。
【論考テキストより一部紹介】
江兆申は安徽省歙県の出身である。歙県の文化的風土と霊秀な山川がこの名画家をはぐくんだといえる。しかし彼の十余年前の山水にはめだった奇趣は無く、一般の中国画とほとんどかわる所がなかった。それが、故宮に入って後、古代の名蹟を尽ごとく見、見識を増大させて、ついにあふれんばかりの、内に隠された泉を蓄積するに至った。民国五七年(一九六八)に横貫公路に遊び、山川の霊妙な気は、天才の暗流をゆり動かし、帰って後「花蓮記遊冊」十二幅を制作して、作風が初めて変化した。このように山水の奇趣は、江氏に対していえば、間違いなく公孫大娘や裴将軍の剣舞の役割を果たしたといえる。
これより後、二度にわたるアメリカ大陸、韓国、日本への旅行をし、また国外に流出した中国美術の名品をことごとく閲覧し、見識と心境は更に遼濶となり、現在、中国古画の鑑定において、江氏はすでに世界の中心的人物であるといえる。
江兆申の水墨山水は造境という点で、すでに極めて高い評価を得ているが、ちなみに彼の篆刻もまったく造型上の勝利である。彼は七歳で篆刻を学び始め、一九三七年に自分で刻印してから現在まで高い芸術性を保持している。斉白石の刀法には豪邁の気が多いが、江兆申の刀法は、蒼勁な中にも筆が紙に滲透してゆく韻味をたたえ、触覚の美にあふれている。彼の篆刻は日本人の推称を受け、千里を遠しとせず高い値で求められる。彼の篆刻上の名声はそのまま彼の絵画にも及び、この八、九年来、印・書・画の世界でまさに斉しい進展をとげている。
書・画・篆刻のすべての世界に入り、同時にこれほどすぐれた成果をあげ得た人は、現在ではほとんど見られない。江氏が中国の未来の芸術界で、崇高な成果をかちとることは予め約束されている。
【目次より】
泛舟
陰崕幽澗
薜茘睛暉
蓮
水聲風籟
清谿人語
重江□嶂
于江春色
秋林展巻
雲蒸
秋巌水樹
老屋荒江
掃花菴
覓句
濕雲靈雨
滄洲夢憶
斷峡飛泉
春景
夏景
秋景
冬景
水天人外
山骨崢蠑
渭川図
林壑招遨
緑池煙景
赤壁図
松門
鴎鳥忘機
澄江連筏
醉山
挂簷帆影
密林影翠
山家晩色
青嶂澄江
江亭小径
榜書
楹帖
楹帖
行書八屏
韓国庭石家蔵中国書画展序文稿
印譜
水墨画の現代への適応 ~江兆申の新野逸精神への試論~ 楚戈
訳者あとがき
江兆申先生年表 詳細な年譜
作品解説
【作品解説 より一部紹介】
1 泛舟181.8×97.3cm 1974
沢畔の樹の間から、一そうの小舟が波に浮んでゆき過ぎるのが見える。水気が紙上に充ち、白雲と渾然一体となっている。近景の樹の多くは一筆で描かれ、水墨の葉の筆底には煙がこめられ、蒼勁と霊秀さを兼有している。遠くの峯は聳え立ち、皴法は心情に由っている。
青緑の彩色をして、雲気をきわだたせ、視る者の眼を圧倒する。
2 陰崕幽澗 151.8×83. 3cm 1977
近景の瓦ぶきの建物は深い林に隠れ、知己である二人は膝を交えて語りあっている。横に走る松林には、進んではまた進ませる、連綿としてはてしない気勢がある。俯瞰した構図は視覚の空間を無限の遠くまで推し延べ、幅全体が墨色の変化を主とする筆法を取り、伝統的山水画の皴染法の常識を打破している。
3 薛茘晴暉 182.8×93.3cm 1977
半壁の高山が卓然と直立する。山間の林木はあおあおとして水が滴たるほど。山の小径には踏み慣した跡があってたどってゆけ、一路をまっすぐにのぼると平らな丘に至る。丘の上には何軒かの瓦屋根があり、山の小径では三人が袂を連ねて進む。前景の岡はやや隆起し、喬木が茂り、瀑布のある左側の小さな山と相呼応している。瀑布の飛沫は潭渓に入り、山水の霊気をいやが上にも高めている。