ファンダメンタルズにもテクニカルにも
短期売買にも長期投資にも
リスク管理にも資金管理にも
強力な論理的裏付けを提供 皆さんが株式を購入するときの動機は何でしょうか?
株券は発行会社のオーナーシップ(所有権)の証明書ですから、有名企業ある
いは個人的に気に入った会社の持ち株分だけのオーナー(株主)になることで
しょうか? もし本書を手に取られた方々のなかに、そのような動機の方がいる
とすれば、本書は何の役にも立ちません。
「金はかかるが知的ゲームなので株式投資を続けている」
そういう方には、本書の第2章か第3章までで読み終えることをお勧めしま
す。
第1章では「なぜ株価は動くのか」を解き明かし、株価を動かす要因を構造的
(継続的)、投機的(目先的)に分類して説明しています。
第2章では株式市場で注目すべき材料を説明し、「投資勘定」と「投機勘定」
に分けて対応の仕方を述べています。ここまでだけでも(例えば市場経済を学び
たい学生諸君にも)それなりの価値があるでしょう。
第3章は株式入門者の素朴な質問というかたちで、前2章で触れられなかった
ところや、復習として理解を深めていただきたいところを埋めています。
第1~3章は初心者の方々にも分かりやすくするため、証券会社のトレーニー
(研修生)と先輩ディーラーとの対話形式で進めました。初心者の方が疑問に思
うかもしれないような点をトレーニ--の口から先輩ディーラーに質問させていま
す。
市場動向を伝えるために引用する新聞記事は、2002年に出版された本書のオリ
ジナル版「値上がる株に投資しろ」では実際の日付を用いました。しかし、もと
もとXデーの記事で十分でしたので、改訂版では20XX年の記事としています。日
付は気にしないでください。
第4章は実際に資金を運用するときに最も重要な点「リスク管理」の大切さを
説いています。
本書は「株式投資でいかにリターンを上げるか」を追い求めている方々のため
の本です。株式投資をされる方々が『会社四季報』や『日経会社情報』を読んだ
り、新聞の株式欄をチェックしたり、はたまた当の企業のバランスシートを調
べ、経営者に興味を持ったりするのは、就職するのに良さそうな会社を見つけた
いからではないでしょう。「値上がる株を見つけたい」からだと思います。あえ
て言えば、どんな会社の株でも、儲けることができるのなら買いたいというのが
本音でしょう。
とはいえ、たまたま仕手筋の情報を得てうまく儲けることができてもその場限
り。自分で儲けたという実感もないでしょう。損すれば、逆恨みしたくもなると
いうものです。
私たちが投資理論を学んだり材料を吟味したりするのは、自分の行動に筋道を
つけ、確信を持つためです。そうすれば仮に間違っていたとしても、自分の行動
の跡を分析して、再チャレンジができます。何度か間違うかもしれません。しか
し、その度に何かをつかみ、上達することができるのです。
そのためには自分で納得して行動する必要があります。本書の第1~4章は、
価格変動の性質を理解し、結果として取る自分の行動に納得してもらうために書
いています。
とはいえ、いかに理論武装をしても、どのように自分の行動に納得していて
も、儲けることができなければ話になりません。リターンが読めなければリスク
を取る意味がないといえます。自己満足して楽しむだけならば、他にいくらでも
安価な手段があるでしょう。
そこで第五章では「実用的なテクニカル分析の利用法」について述べました。
さらに第六章では「ならば値上がる株をどのようにして見つけるのか?」を具
体的に述べています。
なお、分かりにくい専門用語については『相場力アップドリル・株式編』(パ
ンローリング・2005年)の用語集を引用しました。便利ですので、ぜひご利用く
ださい。
このような本で常に疑われるのが「本当に儲かると思っているのなら人に言う
はずがない」というものです。しかし、例えばオリンピックの金メダリストを育
てたコーチが選手育成の秘訣を書いたところで、そのコーチが失うものなどある
でしょうか?
ほかに同じ理論を持っている人がいたとしても、そのコーチだからこそ選手の
潜在能力を見抜き、見事に育てあげることができたのでしょう。
それでは、そんなスーパーコーチが書いたものを一般の人が読むのは無意味で
しょうか?
何も知らなかった人がコーチの理論に触れたなら「目から鱗」で何かを発見で
きるかもしれません。また自分の理論を持つ人は、さらに磨きをかけたり自信を
深めたりして、金メダリストに匹敵する選手を育てあげるかもしれません。
いずれにしても、そのコーチが失うものなどないのです。それよりも私の場合
は資金運用のプロの職人として恥ずかしい仕事はしたくないだけです。
株式投資は株価の未来を予測します。「明日を読む」ことだと言えます。明日
を読んでリスクを取ることは、明日を信じることでもあります。リスクはうまく
取りさえすれば、必ず見返りをくれるのです。
矢口 新