縦:約53㎜
横:約43㎜
作者:-(アンティーク)
QR:カタログクオリティ
アンティークカメオとモダンカメオの大きな違いのひとつに、モチーフの傾向があります。
1800年代はイギリスを中心に、そして1940年頃から1960年頃のモダンカメオの時代はアメリカを中心に流行したカメオは、さらに時が下り1980年代より現在にいたるモダンカメオの時代は日本がその流通の主流となってきました。
この市場の移り変わりでの顧客の需要の変化にこたえる形でカメオのモチーフは主流となるものが変わっており、かつては多く見られたキリスト教の色の濃い作品も、現在はあまりみられないものとなってきております。
さて、今回のモチーフは古くから多くの美術のモチーフとなってきた聖母子とヨハネ。
特にレオナルド・ダ・ヴィンチやラファエロ・サンティによる絵画はよく知られていることでしょう。
本作はそれらと同様、マリアに抱きかかえられた幼イエスとその傍に付き従うヨハネの姿を描いており、ヨハネが携える十字架型の杖もこれらのモチーフのシンボルとして良く描かれるものです。
コンクシェル特有の厚みを用いた像は高く、平置きでは構図が左に偏っているように見えますが、背景は湖畔のようで後ろには建物、空にはアーチ状の構造が彫られており虹がかかった空を表現しているなど、しっかり光を当ててみると全体がまとまって見えるこの見せ方はカメオならではのものといえるでしょう。
また十字架に落ちる影が濃いのでよく画面内で際立ち、色差の少ないコンクでありながら画面内の強弱をよく表している点も見どころで、光輪もマリアとイエスのものを高く立体的に彫り上げているなど、コンクシェルのカメオとして必要不可欠な彫刻的表現は素晴らしいの一言。
コルネリアンやサルドニクスのカメオと異なり陰影をつけて始めてその真価が見える作品なので、ぜひ実際に手に取っていただきたい作品のひとつです。
貝は淡い紅色とオフホワイトのコンクシェル。
コンクには棘が丸っこく厚い貝殻のものと、棘が鋭く薄い貝殻の2タイプがありますが、本作は前者の殻を使っており、マリア像のあたりは11㎜もの厚みがあります。
余談ですが私は勉強のためカメオに使われる貝各種を実際に取り寄せて加工したことがあり、コンクシェルも切ったり彫ったりしたことがあるのですが、これが尋常でない硬さで、現代の工具を使っても加工が非常に困難だったので、本作の制作にあたっての苦労は想像を絶するものがあったことと思います。
硬いだけでなく粘りもあるコンクだけあり表面の摩耗や高く彫られた部分も欠損なく、コンク特有のヘアラインはあるものの光を透過する素材でもないので目立たず、状態は良好です。