《ヴィクトリアン・スタイル ウィングバックチェア — 鋲打ち革張りの静謐》

A Study in Leather, Silence, and Time

19世紀英国に端を発する“ウィングバックチェア”は、かつて暖炉の側に置かれ、貴族や学者の読書と沈思の場を支えた椅子です。本作は、その伝統を色濃く受け継ぐ逸品であり、現代においてなお孤高の存在感を放ちます。

張地には、上質なフルグレインレザーを用い、時の経過とともに自然に浮かび上がったクラック（皺）や色褪せが、人工では再現し得ない真のパティーナを形成。触れるたびに、時代の手触りを伝えてくれます。

背面には、英国チェスターフィールド様式を象徴するディープボタン・タフティング。ボタン締めにより生まれる規則正しい陰影が、荘厳で格式ある印象を与え、椅子でありながら彫刻のような立体感を生み出しています。

アーム部から脚部にかけては、熟練の鋲打ち職人による装飾が施され、フレームはカブリオールレッグ（猫脚）を採用。これは18世紀のフランス・ロココ様式からインスピレーションを得たものであり、力強さと優美さを兼ね備えたシルエットが特徴です。

背面に至るまで一切の妥協なく仕上げられたレザーは、空間に置かれることで静かな緊張感を生み出し、その場の「格」を一段階引き上げる力を有します。椅子としての機能性を超えた、空間の重心としての存在。

【仕様概要】

• 年代：推定1950〜1970年代
• 様式：ヴィクトリアン～チェスターフィールド派生デザイン
• 材質：本革（フルグレイン）、無垢材フレーム
• 脚部：カブリオールレッグ、手仕上げ

この一脚は単なる「椅子」ではなく、時代と美意識を宿した、静かなる語り手です。
美術館的空間、歴史を愛する書斎、あるいは孤高の一席を求めるバーラウンジなど、選ばれた場にこそふさわしい逸品。