縦:約62㎜(枠含66㎜)
横:約46㎜(枠含50㎜)
作者:パトリツィア・パルラーティ
QR:カタログクオリティ
20世紀の彫刻の鬼才カルロ・パルラーティ氏の娘、パトリツィア・パルラーティ作の入荷です。
パトリツィア・パルラーティ氏は20世紀を代表するカメオ作者カルロ・パルラーティ氏の娘として知られるカメオ作者です。
パルラーティ家は代々トッレ・デル・グレコのサンゴ彫刻師の家系で、シェルカメオについてはパトリツィア氏から数えて2代前の祖父アントニオおよびその兄弟とされるラファエレの時代から確認されており、両者及び先代の兄弟カルロ、ヴィンチェンツォ両名の作品は当ギャラリーでも取り扱ったことがあるため、現在唯一3代にわたって取り扱いがある一族となります。
パルラーティ家の作風の源流はアントニオ・パルラーティの時代には確立されており(アントニオ作は基本的に日本では出回らない。A.Parlatiのサインがあるものはカルロの兄であるアニエロ・パルラーティのもの)そこからさらに洗練・発展させたカルロの時代に絵画や彫刻を含む芸術家としての名声がピークへと達しましたが、パトリツィア氏はその偉大な実父の継承者であることとカメオ界では珍しい女性の作者であることが合わさり、日本では非常に有名なカメオ作者の一人といっていいでしょう。
今回の作品はパトリツィア氏の作品の中でも古いもので父の存命時の作品です。
サインの書式も近年のものとことなりますが、ごく少数ながら同様の書式のものが知られており同氏作であることが確認できています。
作品は見ての通り、パルラーティ家の作品では珍しい三層彫り。
パルラーティ家の様式は彫刻と絵画の特色を併せ持つカメオのなかでもとりわけ彫刻の技術に重きを置いたもので、それはカルロが「カメオ彫刻の修行は(色の変化は少ないが厚みに優れる)コンクシェルで行え」という言葉を残したことからもはっきりしています。
個人的にもパルラーティ家のシェルカメオの良し悪しを分けるポイントとして、まず良いシェルカメオ選びの原則で切り抜き型の作品を避けることを第1に、テーマやモチーフがはっきりしているかどうか、そして母材が厚く彫刻表現がいかんなく発揮されているかどうかを見ます。
本作においては3つの要素をすべて備えているだけでなく、さらに本作に用いられたような外唇部は通常の外周部に比べて圧倒的に厚く、パルラーティ家の作風とは相性がいいのも特筆すべき点になります。
作品のモチーフもはっきりしており、テュルソスを手にした女性像であることからバッカンテであることが分かりますが、古典的な髪にブドウの蔦を戴いた姿ではないのが特徴的です。
これはおそらく大胆な彫りを主とするパルラーティ家の様式と繊細なブドウの蔦は相性が悪かったからなのでしょう。
その代わりにいかにもパルラーティらしい巻き髪がかなり厚みをもって十分な存在感を放ち、また全体的に流れのある構図感が厚みによって強調されており、これもパルラーティらしくて良し。
彫りに関しては古いだけあって粗削りな部分もあり、また仕上げで少し丸みがついてしまっているものの、パトリツィア作としては稀に見る傑作の部類と言えましょう。
貝はコーヒー色の地にくっきりとした白色層、さらに淡黄色からまた濃い褐色が乗る最上質のサルドニクス。
この三層彫りに使われる外唇部はカメオ母材としては一般によく使われている外周部よりずっと高いポテンシャルをもっているものの、外周部より硬く、貝の中にどういう色の層が入ってるかも削ってみるまで分からないなどカメオの素材としては扱いが難しい部位です。
状態としては傷も少なく、上層および下層は無傷で、中間層の白色層に数筋のヘアラインがみられます。
彫り筋のまるみについては保管時のものではなく先述の通り仕上げによるもので、全体的に状態は大変良好です。
フレームはK18製。
90年代の覆輪型でブローチ金具は鉄砲式、ブローチピン下のブリッジの曲がり防止や下向き防止金具も備え、外周にモールと金板で飾り枠がついています。
ピンやブリッジにわずかに曲がりがありますがもちろん実用に問題なし。
金価格高騰により地金目的でフレームが破壊されるものがますます増え、ブローチとして仕立て直すにも大金がかかる現代にあっては、良作カメオのブローチ仕立て済のものは一層の価値があり、今後もその価値は上がっていくことが予想されます。