小林和作（1888年8月16日～1974年11月4日）は、山口県吉敷郡出身の洋画家で、独立美術協会会員。京都市立美術工芸学校および京都市立絵画専門学校で日本画を学んだが、大正期に洋画へ転向し、梅原龍三郎や中川一政、林武に師事。春陽会で活動後、1934年に独立美術協会へ参加し、尾道に移住。以降、独立展を中心に作品を発表し、写生旅行を重ねた。1953年に芸術選奨文部大臣賞、1971年に勲三等旭日中綬章を受章。作風は初期のフランス・アカデミスムの影響を受けたが、次第に印象派以降の近代的画風へ移行し、晩年は風景画を中心に、日本各地の自然の美しさを描いた。独自の色彩感覚と筆致で風景を捉え、明るく伸びやかな作風が特徴。随筆家としても知られ、多くの著書を残した。

小林和作「秋山 島根県頓原附近」油彩 10号
本作《秋山 島根県頓原附近》は、洋画家・小林和作が中国山地の自然に深い愛情を込めて描いた、晩年の代表的風景画のひとつです。島根県中山間部に位置する頓原の秋の風景を、鮮烈な色彩と躍動的な筆致によって力強く表現しています。画面全体に広がるのは、赤や黄、緑、青など無数の色彩が渦巻くような、豊穣な秋の大地。画家は自然の中に宿る生命力を、写実ではなく感覚と感動のままにキャンバスへと定着させています。木々のざわめきや空気の冷たさ、秋の陽光のきらめきが、厚塗りの絵肌から伝わってくるようです。

和作は日本画の素養を持ちながら、洋画へと転向し、梅原龍三郎や中川一政らに学んだのち、独自の絵画世界を築き上げました。尾道を拠点に各地を旅しながら、自然との対話を重ね、風景を描くことに人生を捧げました。その作品は単なる風景描写にとどまらず、画家自身の感性や哲学がにじむ「生きた風景」として、多くの人々の心を惹きつけてやみません。この作品においても、和作ならではの明るく伸びやかな色彩感覚と、対象への深いまなざしが存分に発揮されており、日本の自然の美しさと画家の情熱が見事に融合した一枚となっています。色彩が全盛期の、画伯の山辺風景の名画です。